暁色

   砂の空間は寂莫とし、心理を映して限りなく静謐である。私はそんな超現実とも思える空間を逍遙して飽きない。最近では砂の世界の小さな溜り水に惹かれるようになって、それが主題になったり、画面のどこかに表われるようになった。静かな水面は空の色を映して明るく深い不可思議な小さな宇宙である。風景の中にいっそう私自身を見つめようとしはじめたのかも知れない。そこに私の心の奥底が見えるようにさえ思えるのである。
   私の仕事は現実的な対象の直視からはじまる。そこから私の世界は展開する。はじめに論理があって作品が創り出されるとは思わない。描き描くことによって漠とした私の美学の輪郭が少しずつ明らかになると思うのである。それは限りない反復である。

「第23回日展アートガイド」(1991年)