鏡のある風景

   1982年国際形象展で私は作品「鏡」を発表した。それ以来私の作品に鏡が登場するようになった。実像と虚像とが係りあい作り出される空間は虚構のようでもあり、実在の世界のようでもある。風景の中に鏡を置くことによって背後の空間をとり込むことができる。ある人はこれを絵画空間の拡大と言った。
   私は広島を訪ね、想うとき、あのいまわしい原爆を考えないことはない。平和で豊かな時代は永久であらねばならないが、広島にとってはあの悲惨な過去の瘡痕は消えることがないのだ。
   公園に集う若者たちの中にふとあの瘡痕を映す鏡を見た。タイムトンネルのように鏡の中の世界は現実を超越し、絵画空間は、時間を拡大した。

「広島・ヒロシマ・HIROSHIMA ― 国内外の制作委託作家78名によるヒロシマの心 ― 」
(広島市現代美術館 1989年)